CASE
「学ぶ」から「体感する」へ。新しいDEI研修のかたち
2026.06.12

ゆるスポーツDEI研修とは、「弱さを活かす」というマイノリティデザインの視点から、新しいゆるスポーツを考案するワークショップなどを体験するプログラムです。一見難しく捉えられがちなDEIの本質を、誰もが主役になれるスポーツを通じて、楽しみながら「自分ごと」として体感・理解することができます。
NHK番組の美術制作を軸に、デザイン、CG・VFX、イベント・ホール運営まで一貫して手掛け、社会課題の解決にも取り組む総合美術会社、株式会社NHKアート様に本研修を導入いただきました。
同社では社内のユニバーサルデザイン(以下、UD)推進の一環として、ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン(以下、DEI)研修を毎年継続して実施してきました。これまで座学や映像、当事者を招いたワークショップなど、さまざまな形式で学びを深めてきましたが、今回は新たな試みとして「ゆるスポーツ」を活用した体験型研修を導入しました。その背景や効果について、企画・運営を担当された株式会社NHKアートのUD推進ワーキングチーム事務局、黒岩様・小杉様に伺いました。
▼研修の詳細
参加人数:約20名
実施時期:2026年2月
実施時間:2時間
実施内容:ゆるスポーツ体験・マイノリティデザイン講義・ゆるスポーツ開発ワークショップ
▼ 今回のワークショップテーマ
参加者(Aさん)のご家族をターゲットとし、今回はAさんのお母様(79歳:神経痛により立ったり座ったりする動作に制限あり)と、活発なお子さま(8歳:小学2年生)が一緒に楽しめるスポーツを、NHKアートのオフィスがある「奥渋(おくしぶ)」地域ならではの要素とかけ合わせて開発しました。
本来は当事者のお二人にも同席いただき、一緒に開発することが理想ですが、今回はお母さまのご体調、お子さまのスケジュールが難しかったため、事前にお二人の好きなスポーツや興味のあること、ゆるスポーツをどう活用してみたいかなど当事者本人への詳細なインタビューを事前に行い、その内容を当日の参加者に共有しました。そのインタビューで得られた「声」を手がかりに、身近な当事者を出発点として、マイノリティデザインを自分事として体験できる設計としました。
研修を「受動的」なものから「能動的」なものへ
ー 今回、「ゆるスポーツDEI研修」を実施するに至った背景を教えてください。
(小杉さん)UDを勉強していく上で、DEIは非常に関係する要素が多いものです。これまでは「DEIとは何か」という基礎や、映像コンテンツにおける表現などを学んできました。ただ、何回か継続する中で、座学よりも体験やワークショップを交えた方がより深く学べるという実感がありました。受講を義務付けられた研修ではなく、興味を持って有志で参加してくれるような、楽しく取り組める研修にしたいという思いがきっかけです。
(黒岩さん)過去の研修でも、クリエイターが多い社風ということもあり、体験型は非常に好評でした。そのため、自分事としての理解まで落とし込むことができる参加型の要素を、より強く取り入れた研修を行いたいと考えました。
オリジナリティを追求できる「型のない」提案
ー 数ある研修の中で、なぜ「ゆるスポーツ」に注目されたのでしょうか?
(黒岩さん)弊社が推進するART+UD(社員の業務や働き方をイキイキとさせるための、弊社独自のUDの考え方)のスキル維持・向上のため、UDコーディネーター研修などを定期的に行っていますが、 DEIに関しては模索していました。障害のある方の当事者体験研修も検討しましたが、参加人数が限られることや、拘束時間・費用が難しい点などの理由から、実現が難しいケースもありました。
そうした中で、弊社UD推進チームのメンバーから「マイノリティデザイン」という考え方を聞き、「より多くの人に伝える」というこれまで追求してきた発想とは異なる真逆の視点に触れることで、既存のスキルに新たな視点をプラスできるのではないかと考えました。
(小杉さん)貴団体代表の澤田さん著書『マイノリティデザイン』を推進チームの資料として拝読しており、存在は知っていました。チームメンバーがコンタクトをとらせていただき、初めてオンライン打合せをした際、「何か一緒に面白いことができそう」という感覚を持ちました。「ゆるスポーツ」がなぜできたのか、どういう考え方でつくられているのかを拝聴することも、UDを業務に活用している弊社にとってメリットがあると感じました。
研修をご依頼するに至り、決まった研修の内容をNHKアートに当てはめるのではなく、NHKアートの状況や課題に合わせてカスタマイズした研修内容をご提案いただけました。具体的な提案過程で、ワークショップ課題(誰に向けてゆるスポーツを作るのか)のターゲット設定などを自分たちで考える「宿題」をいただいたのは意外でしたが、決まりきったパッケージではなく、自分たちで内容を掘り起こす作業があったからこそ、NHKアートらしいオリジナリティのある内容になったと感じています。

驚くほどの没頭と、
自然に生まれたチームワーク
ー 当日のワークショップの様子はいかがでしたか?
(小杉さん)参加者がとにかく没頭していたのが印象的でした。今回は関連会社の方々も参加可能にしたのですが、初めて顔を合わせるメンバーが、ウォーミングアップを経て、最後には初対面とは思えないほどのチームプレーを見せてくれました。
(黒岩さん)講師の方のテンポの良いお話に引き込まれ、参加者の心をしっかりと掴んでいただきました。アンケートでも「年次や業種を問わず、短時間で多くのインプットとアウトプットができた」「コミュニケーションの重要性を改めて実感できた」といった声がありました。
私自身も、講師の方がマイノリティデザインの考え方をもとに、課題を完成させるための対象者(ターゲット)の捉え方や思考の進め方を丁寧に示してくださったことに、多くの学びや気づきがありました。

ー 研修を通じて、参加者の皆さんの意識にどのような変化がありましたか?
(黒岩さん)「弱さも自分らしさ」というメッセージが心に残ったという声が多くありました。UDを推進する立場だと、どうしても「多くの人に合うように」と考えすぎて苦しくなることがあります。しかし、特定の誰か(マイノリティ)に向けてピンポイントで考えるという「マイノリティデザイン」の発想に触れたことで、考え方にゆとりや遊びが生まれたように感じます。
(小杉さん)研修後に、個人的に『マイノリティデザイン』の本を購入したという人も何人かいました。新しい概念を知るだけでなく、それを自分たちの仕事や社会にどう活かすかという幅が広がったのではないでしょうか。

ギャップを埋める「橋渡し」としての研修
ー 最後に、この研修を検討されている他社の方へメッセージをお願いします。
(小杉さん)職種や企業形態に関わらず、社会で働くひとりの人間として、視野が広がる考え方を学べるプログラムだと思います。この研修を通じて、社会人としてはもちろん、ひとりの人間としての幅がぐっと広がったと感じています。自分自身がひとまわり「壮大」になれたような、そんな確かな手応えを得ることができました。
(黒岩さん)私たちの大きな課題は、UDやDEIといった多様性に関する意識の高い層と、そうでない層との間にあるギャップを、どのように埋めていくかという点でした。どんなに意義のある研修であっても、関心を持てなければ、最初から参加してくれません。そこで、あえて「DEI研修」という硬いタイトルではなく、「ゆるスポーツ研修」という入り口から提案したことで、普段なら参加しない層を自然に巻き込むことができました。
DEI研修への参加にためらいを感じていた方々にとって、この「ゆるスポーツ研修」は、意識の差という壁を越え、両者をつなぐ「橋渡し」になったと確信しています。
